今年の10月1日からステルスマーケティング(通称「ステマ」)に対する規制が新たにスタートします。
特にファッションやビューティ業界では、有効なマーケティング手法としてステマが活用されてきたことから、今回の規制はファッションやビューティ業界をはじめ多くの業界に大きな影響をもたらすこと必至。
そこで、そもそもステマって何? なぜダメなの? どんなことが規制される? 今後どう対応すればいい? などなど、ステマをめぐる疑問と対応策について詳しく解説したいと思います。
「ステマ」って何?
ステマとは、一般に、消費者に宣伝と気づかれないように行われる宣伝のことをいいます。
ステマには次の2つのタイプがあるといわれています。
- 本当はブランドの広報担当者として宣伝しているのに、それを隠して、あくまで1インフルエンサーが宣伝しているかのように見せるタイプ(なりすまし型)
- 本当はインフルエンサーにお金を払ったり商品をプレゼントして宣伝してもらっているのに、それを隠して、あくまでインフルエンサーが中立的に宣伝しているかのように見せるタイプ(利益提供秘匿型)
ステマをめぐるこれまでの動き
日本では、たとえばステマの内容が、実際の商品よりも著しく品質がよいと誤解させるもの(景品表示法上の「不当表示」に当たるもの)など悪質なものを除いては、基本的にはこれを直接規制する法律はなく、業界団体の自主規制などにゆだねられてきました。
他方、たとえばアメリカでは広くステマ規制が行われており、インフルエンサー向けに、表示の仕方などをわかりやすく解説した小冊子やビデオなども公開されています(小冊子やビデオは英語ですが、とてもわかりやすいのでご興味のある方はぜひチェックしてみてください!)。
また、投稿などに問題があると考えられるインフルエンサーには連邦取引委員会(FTC)が警告書を送るなど、積極的にステマ規制に取り組んでいます。
このように海外ではステマへの規制が加速しており、OECD加盟国(名目GDP上位9か国)でステマへの規制がないのは日本のみであることも指摘されています。
なぜステマをするの? なぜステマはダメなの?
一般的に、消費者としては、広告であることが明らかな投稿などに対しては「広告だから当然いいことしか言わないよね」と警戒することが多いですよね。
これに対して、いつも見ているインフルエンサーなど中立的に見える人たちの投稿に対しては、「この人が言ってるなら信用できる」「この人がおススメするなら買ってみようかな」と信頼する傾向が高いと考えられます。
実際にも「『広告』である旨を明示しない広告は、少なくとも確実に20%程度は増加するという対価を持っている」との指摘も(*)。
広告主にとって、ステマは魅力的なプロモーション手法の一つといえます。
他方で、信頼できると思っていたインフルエンサーの投稿が、実はブランドや会社から報酬をもらってやっていたものであったと知ったら、消費者としては、「知っていれば買わなかったのに」「信頼していたのに」と残念に思ったり、裏切られたような気持ちになることもあるでしょう。
もし消費者が、その投稿が広告であると知っていれば、違った選択をした可能性もあります。
このようにステマは、消費者が自主的で合理的に判断するのを邪魔するリスクがあるわけです。
ステマ規制にどう対応すればいい?
こうした中、日本でもステマ規制への機運が高まり、景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)により規制されることになりました。
法律の構造を少しだけ説明しておくと、景品表示法5条は、事業者がしてはいけない表示(宣伝など)の一つとして、”消費者に誤認されるおそれがある表示で、不当に消費者を誘引し、消費者の自主的・合理的な選択を阻害するおそれがあるとして内閣総理大臣が指定するもの”を挙げています(3号)。これを受けて、今回、内閣総理大臣が「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」を指定した、という建付けになっています。
◆ 何が規制される?
今回規制されるのは、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」、言い換えると”事業者の商品やサービスの宣伝であるにもかかわらず、宣伝だと明示しないことにより、消費者が宣伝と判別することが困難なもの”です。
端的にいうと、”事業者の表示(宣伝)であるにもかかわらず、第三者の表示のように見えるもの”が対象となります。
広告なのに広告であることを隠すステマは、まさに規制の対象といえます。
なお、テレビCMや映画のエンドロールでの表示、自社の公式ウェブサイトでの宣伝や公式アカウントの投稿など、事業者の表示であることが明らかといえる場合は、規制の対象とはなりません(この場合でも、消費者が事業者の表示ではないと誤認する恐れがある場合は対象となります。)。
◆ 具体的にどう対応すればいい?
ステマ規制への対応は次の2点がポイントといえます。
- 事業者が表示内容の決定に関与したといえる場合は、事業者の表示であることを明示しよう
- 事業者の表示であることは、表示全体から見てわかりやすく示そう
それぞれについて具体的に見ていきましょう。
◆ 事業者が表示内容の決定に関与したといえる場合は、事業者の表示であることを明示しよう
✓ 商品開発や販売などを担当する役員や従業員などが宣伝する場合
ざっくりいうと、商品開発や販売などを担当する役員や従業員が、その商品の宣伝を行う場合は、事業者が表示内容に決定に関与しているといえるため、事業者の表示であることを明らかにする必要があります。
少し難しくいうと、事業者と一定の関係性があり、事業者と一体と認められる従業員(事業者の子会社などの従業員を含みます。)が商品やサービスについて宣伝(投稿など)する場合は、事業者が表示内容の決定に関与していると判断されます。事業者と一体かどうかは、従業員の地位や立場、権限、担当業務、投稿の目的などの実態を踏まえて、事業者が投稿内容の決定に関与したかを総合的に考慮して判断するものとされています。
✓ インフルエンサーなど第三者に宣伝してもらう場合
事業者がインフルエンサーなどの第三者に宣伝してもらう場合も、事業者が表示(宣伝)内容の決定に関与しているかどうかがポイントになります。
たとえば次のようなケースで、事業者がインフルエンサーなどに明示・黙示に指示・依頼などして、その表示内容の決定に関与しているといえる場合などが挙げられます。
- インフルエンサーなどに指示・依頼してSNSや口コミサイトなどに投稿してもらう場合
- ブローカー(レビューをSNSなどで募集する人)や商品を購入した顧客に依頼してレビュー投稿してもらう場合
- アフィリエイターに依頼してアフィリエイトで紹介してもらう場合
- 他の事業者に依頼して競合商品を自社商品よりも低く評価してもらう場合
なお、事業者がインフルエンサーなどに明確に指示や依頼をしていない場合でも、客観的な状況からインフルエンサーなどの自主的な意思による表示内容とはいえない関係性があるときは、事業者の表示となります。
たとえば、明示的に依頼はしていないものの、「投稿してくれれば今後の取引もありえる」といったことを匂わせる場合などがこれに当たります。
この判断にあたっては、次のような事情を総合的に考慮するとされています。
・事業者と第三者との具体的なやり取りの態様や内容(ex. メール、口頭、送付状等の内容) ・事業者が第三者の表示に対して提供する対価の内容、主な提供理由(ex. 宣伝目的がどうか) ・事業者と第三者の関係性の状況(ex. 過去に事業者が第三者の表示に対価を提供していた場合に、その関係性がどの程度続いていたか、今後、対価を提供する関係がどの程度続くか) etc… |
✓ 事業者の表示とはいえない例外的なケース
これに対し、客観的な状況から、インフルエンサーや顧客などの第三者があくまで自主的な意思で投稿などしているといえる場合には、事業者が表示内容の決定に関与したとはいえず、基本的には規制の対象にはならないものとされています。
自主的な意思で投稿しているかどうかをどう判断するか? については、次のような事情を考慮して、事業者がインフルエンサーや顧客などの第三者による表示内容を決定できる程度の関係性があるか否かにより判断するとされています。
・第三者と事業者との間で、表示の内容について情報のやり取りが直接・間接的に一切行われていないか ・事業者から第三者に、表示内容について依頼や指示があるか ・第三者の表示の前後で、事業者が第三者の表示内容に対価をすでに提供しているか ・過去に対価を提供した関係性がどの程度続いていたか ・今後提供することが決まっているか、今後対価を提供する関係性がどの程度続くか ・商品やサービスの特性等(たとえば、シーズン商品か、など) |
具体的には次のようなケースが考えられます。
ただ、自主的な意思で行われているかの線引きはなかなか難しいことから、やや判断に迷うところではあります。今後のケースの集積が待たれますね。
- インフルエンサーなどが、自主的な意思で投稿する場合
- 業者が第三者に商品やサービスを無料で提供して投稿を依頼したが、第三者が自主的な意思で投稿する場合
- アフィリエイターの表示でも、事業者とアフィリエイターとの間でその表示について一切やり取りしないなど、アフィリエイトプログラムを利用した広告主による公告とはいえない場合
- 購入者が自主的な意思でレビュー投稿する場合
- 購入者にレビュー投稿のお礼として割引クーポンなどを配る場合でも、事業者と購入者との間でレビュー投稿の内容について一切やり取りしないなど、客観的な状況から購入者が自主的な意思でレビュー投稿したといえる場合
- 第三者がSNS上のキャンペーンや懸賞に応募するために、自主的な意思で投稿する場合
- 事業者が自社ウェブサイトに第三者のレビュー投稿などを引用する場合でも、高評価だけを取り上げるなど恣意的に取り上げたりせず、投稿内容に変更を加えずにそのまま引用する場合
- 不特定の第三者に試供品などを配った結果、不特定の第三者が自主的な意思でレビュー投稿などする場合
- 会員などの特定の第三者に試供品などを配った結果、第三者が自主的な意思でレビュー投稿などする場合
- 事業者が表示内容を決定できるほどの関係性にない第三者に対して、単なるプレゼントなど投稿を目的とせずに商品などを提供した結果、第三者が自主的な意思で投稿する場合
- 新聞社や雑誌社、放送事業者業などが自主的な意思で企画、編集、制作した記事や書評、番組放送
ただし、通常の取材協力費を大きく超える支払がされているなど正常な商慣習を超えた取材活動であるとの実態がある場合は事業者の表示となる
◆ 事業者の表示であることは、表示全体から見てわかりやすく示そう
事業者の表示といえる場合は、その旨をわかりやすく示すことが必要です。
具体的には次のような方法が考えられます。
● 「広告」、「宣伝」、「プロモーション」、「PR」などの文言を明記 ● 「A社から商品の提供を受けて投稿している」といった文章を記載 |
インスタグラムにはタイアップ投稿機能などもありますので、そうした機能も積極的に活用しましょう。
これに対し、事業者の表示であると全く記載しないことはもちろん、次のようなわかりにくい表示はしないようにしましょう。
- 冒頭に「広告」と記載しているのに、文中では「これは第三者として感想を記載しています。」と記載するなど(その逆も)、事業者の表示であるかどうかが分かりにくい場合
- 動画で、消費者が認識できないほど短い時間しか表示しなかったり、長時間の動画の一部にしか表示しないなど、消費者が認識しにくい場合
- 消費者が認識できない文言を使用する場合
- 見にくい位置や大きさ、長文、周囲より薄い色など、消費者が認識しにくい場合
- SNSの投稿などで大量なハッシュタグの中に埋もれさせるなど、他の情報に紛れ込ませる場合
違反するとどうなる?
ステマ規制に違反すると、消費者庁から、消費者に与えた誤認の排除や再発防止策の実施、今後同様の違反行為を行わないことなどを命ずる「措置命令」が行われます。消費者庁の調査により違反が認められない場合でも、指導の措置が行われることもあります。
なお、措置命令に違反した場合は、2年以下の懲役、300万円以下の罰金という罰則もあります。法人の場合は最大3億円の罰金が科される可能性もあります。
いずれにせよ、対応に時間や手間がかかって事業に影響が出たり、措置命令の結果が公表されてブランドや企業イメージが毀損されることにつながることから、違反しないよう注意しましょう。
最後に
ここまでステマ規制について詳しく見てきましたが、最大のポイントは、事業者が表示内容の決定に関与したといえる場合(開発や販売担当者が宣伝する場合や、明示または黙示に指示や依頼をしたり、インフルエンサーなどの自主的な意思によるとはいえない場合)は、事業者の表示であることを明記することに尽きるかと思います。
今年の10月1日のスタートに向け、社内で宣伝する際のルールや、インフルエンサーによる表記の統一など、早めに準備を進めておくことが重要です。
なお、詳しくは、消費者庁「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準をご覧ください。