2023年4月28日、フリーランスの保護を目的とする「フリーランス新法」(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案)が成立しました。
ファッション業界でも多くのフリーランスの方が活動されていますが、フリーランスに仕事を依頼する際は口頭だけで済ませたり、条件を明示しなかったり、契約書を締結しないことも少なくありません。
フリーランス新法は、こうした慣習にNOを突きつけ、フリーランスに仕事を依頼する企業などにさまざまな義務を課しており、ファッションビジネスにも大きな影響を及ぼしそうです。
フリーランス新法とはどんな法律? フリーランス新法で何がどう変わる?
フリーランスの方はもちろん、フリーランスとの契約に関わる方はぜひチェックしておきましょう。
フリーランス新法はどんな法律?
フリーランス新法は、フリーランスとの取引の適正化と就業環境の整備を図ることを目的として、フリーランスに仕事を依頼する企業など(委託者)にさまざまな義務を課しています。
◆ 誰が保護される?
フリーランス新法で保護されるのは、いわゆるフリーランスと呼ばれる次の事業者です(フリーランス新法では「特定受託事業者」といいます。ここではわかりやすく「フリーランス」とします。)。
もし読者の皆さんが次のいずれかに当てはまる場合は、フリーランス新法の保護を受けられるということになります。
- 個人事業主(従業員を使用しない個人)
- 法人成りしたフリーランス(代表者以外に役員も従業員もいない法人)
※なお、従業員には短時間・短期間など一時的に雇用される人は含まないとされています。
◆ 誰が守らなければならない?
フリーランス新法で決められた義務や禁止事項を守らなければならないのは、主に次の事業者です(フリーランス新法では「特定委託事業者」といいます。ここではわかりやすく「委託者」とします。)。
ただし、後述のとおり、条件を明示する義務だけは、次の事業者だけでなく、フリーランス自身も守らなければならないとされています。
- 従業員を使用する個人事業主
- 2人以上の役員がいるか、従業員を使用する法人
◆ どんな取引に適用される?
フリーランス新法が適用されるのは、事業者と事業者の取引、つまり B to B 取引です(そのため、消費者との取引には適用されません。)。
フリーランスに業務・サービスを委託する場合に広く適用されます。
フリーランス新法で何がどう変わる?
フリーランス新法により、委託者にはどのような義務が課され、また禁止されるのか、具体的に見ていきましょう。
◆ 条件を書面等で明示しなければならない
委託者は、フリーランスに業務を委託した場合、直ちに業務の内容、報酬の額、支払期日などの条件を書面やメールなどで明示しなければなりません。
口頭のみで条件を提示するのはNGということになります。
なお、上でも触れましたが、委託者がフリーランスに委託する場合はもちろん、フリーランスが他のフリーランスに業務を委託する場合も同様に条件を明示しなければならないものとされています。
フリーランス同士は条件の取り決めがなあなあになりがちですが、条件をしっかりと文面に残すようにしてください。
具体的には次のような条件を明示するのが望ましいかと思います。
【条件の一例】 ・業務の内容(具体的な内容や実施日など) ・報酬の金額、支払期日、支払方法 ・成果物の内容、納期、納入方法 ・検収 ・契約不適合責任 ・解除条件 ・守秘義務 ・損害賠償 etc. |
◆ 報酬の支払い期日は60日以内
フリーランスへの報酬の支払いは、業務が完了したり成果物の納品を受けてから60日以内とされています。
たとえば委託者が支払いタームを「フリーランスから請求書を受け取った月の翌月末日」などと設定しているのは業界あるあるですが、実際の支払いが業務の完了や成果物の納品から60日を超えてしまうと違反になり得ます。
また、成果物が検査に合格した日を基準に支払日を設定するケースもありますが、検査ではなく納品から60日以内ですので、この点にも注意が必要です。
自社の支払いタームを改めて見直しておきましょう。
なお、A社→B社→フリーランスと再委託をしているような場合には、B社は、発注元であるA社から支払いを受ける日の30日以内に支払うものとされています。
◆ 禁止されること
委託者は、フリーランスに業務を委託するにあたり、次のことを行ってはならないものとされています。
ただし、この禁止の対象となる取引は、政令で定める期間以上の継続的な取引に限定されています。
- フリーランスの責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること
- フリーランスの責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
- フリーランスの責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
- 通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
- 正当な理由なく委託者が指定する物の購入やサービスの利用を強制すること
- 委託者のために金銭やサービスその他の経済上の利益を提供させること
- フリーランスの責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、またはやり直させること
※⑥と⑦はこれらの行為によりフリーランスの利益を不当に害しないことが求められます。
◆ フリーランスの環境の整備
委託者は、フリーランスが働きやすい環境を整備しなければならないものとされています。
具体的には、次のような義務が課されています。
- 広告などで募集するときは、虚偽の情報を表示してはならず、正確・最新の内容を表示しなければなりません。
- 継続的な取引の場合は、フリーランスが育児や介護と両立できるよう、必要な配慮をしなければなりません。
- フリーランスに対するハラスメントについての相談対応の体制を整備するなど、必要な措置をしなければなりません。
- 継続的な取引を途中で解除する場合には、原則として、中途解除日の30日前までに予告しなければなりません。
違反したらどうなる?
委託者がこれらの義務に違反した場合、公正取引委員会、中小企業庁長官または厚生労働大臣は、違反行為について助言や指導、報告徴収・立入検査、勧告、公表、命令をすることができるとされ、命令違反や検査拒否などに対しては、50万円以下の罰金に処するとされています。
フリーランスとの適正な取引に向け準備を
フリーランス新法がいつ施行されるかについて、1年半以内に施行するとされていることから、早ければ年内、遅くとも2024年中には施行されるものと考えられます。
さまざまな義務や禁止事項が規定されていますが、やはり最大のポイントは条件を書面やメール等で明示する点でしょう。
これまでのように、口頭でさくっと業務を依頼したり、条件をうやむやにしたまま業務を進めることはできなくなるという点でも、委託者・フリーランスともに大きな変革をせまられるものと考えられます。
フリーランスとの適正な取引に向けて、フリーランス新法の内容を十分理解するとともに、書面などの様式の用意、従前のフリーランスとの契約書の見直し、支払いタームのチェックなど、早めに準備を進めておくことが重要です。
フリーランス新法について、制度の概要はこちらをご覧ください。
また、条文はこちらをご確認ください。
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