昨今、声優さんが自身の声を生成AIで使われることが問題となっており、声優さんの声にも何らかの権利を認めたほうがよいのではないかとの声が聞かれます。その中で、有名人の持つ権利である「パブリシティ権」に注目が集まっており、パブリシティ権について判断した最高裁判決である「ピンク・レディー事件」が話題になっています。
「ピンク・レディー事件」最高裁判決はパブリシティ権侵害の基準を示した超有名判決です。
「そもそもパブリシティ権て何?」という方もぜひチェックしておきましょう。
パブリシティ権とは?
そもそもパブリシティ権とは何か? というお話から入りましょう。
たとえばTWICEファンは、番組でTWICEのメンバーが着てたり雑誌で「メンバーの私服」と紹介された服を「欲しい」と思って買ったりしますよね。つまりTWICEのメンバーの肖像や名前などには服の販売を促進する力があるわけです。この力を顧客吸引力といいます。
顧客吸引力は、そのアーティストが頑張って色々な番組やCMなどに出演したり、雑誌に登場したりして自分自身の知名度を上げて獲得したもの。それを、そのアーティストとは全く関係ない赤の他人がその知名度に乗っかって勝手に使ってお金儲けできるのは不公平ですよね。
そこで顧客吸引力がある肖像や名前などをアーティストだけが独占できる権利=パブリシティ権が認められたわけです。基本的には有名人の権利ですね。
肖像や名前などはまさに人格そのもの。だから顧客吸引力がある肖像や名前なども人格に深く結びついているといえます。このことを「人格権に由来する権利」なんていったりもします。
人格はその人のものなので、基本的にはその人がOKすれば肖像や名前も使えます。
もっとも、有名人に同意をとるのは難しいですし、有名人は有名人だからこそニュースや創作物などで取り上げられたりするわけで、ニュースや創作物などで取り上げられることは正当な表現行為として我慢しなきゃいけない場合もありますよね。
じゃあどんな場合にパブリシティ権侵害になるのか? その判断基準を示したのがピンク・レディー事件判決というわけです。
ピンク・レディー事件とはどんな事件だった?
平成18年秋頃、ダイエットに関心を持つ女性の間で、ピンク・レディーのヒット曲の振り付けでダイエットするのが流行ったんですね。
で、週刊誌『女性自身』が、「ピンク・レディーdeダイエット」という記事を載せて、その中でピンク・レディーの白黒写真14枚を使いました。ここには、某タレントが思い出話を語っている記事なども掲載されていました。
そこで、ピンク・レディーは、この記事がパブリシティ権を侵害するとして損害賠償を請求しました。
最高裁はどう判断した?
まず、パブリシティ権について次のように言っています。
肖像や名前は、商品の販売を促進する顧客吸引力を持つ場合があるよね。この顧客吸引力を独占する権利をパブリシティ権ていうわけだけど、これって肖像とか名前が持ってる商業的な価値によるものだから、人格権に由来する権利のひとつだよね。
でもさ、有名人て社会の注目を集めたりして肖像や名前をニュースとか創作物とかに使用されることもあるでしょ。そういう正当な表現行為については我慢しなきゃいけないこともあるよね。
パブリシティ権と正当な表現行為とのバランスを図ったわけですね。
その上で、以下のような判断基準を導き出しました。
肖像や名前を無断で使うことが、専ら肖像や名前がもつ顧客吸引力を利用する目的の場合は、パブリシティ権侵害になるよ! 具体的には、肖像や名前を
①それ自体、独立して鑑賞の対象となる商品として使用する場合
②商品の差別化のために使用する場合
③商品の広告として使用する場合
だよ!
最高裁は、上のような基準を示した上で、今回のケースについて次のように判断しました。
この記事はさ、ピンク・レディーそのものを紹介してるわけじゃなくて、流行のダイエット法を解説したものだよね。あとは、子供の頃にピンク・レディーのダンスをまねてたっていうタレントの思い出話の紹介でしょ。
ピンク・レディーの写真は200ページの週刊誌全体の3ページにしか使用されてないし、白黒で大きさも大きくないよね。そうすると、ピンク・レディーの写真は、ダイエット法の解説とタレントの思い出話の紹介にあたって、読者の記憶を呼び起こして記事の内容を補足する目的で使われてるわけで、パブリシティ権侵害には当たらないよ。
わかりやすくいうと…
上の①~③の判断基準、ちょっとわかりにくいですよね。
この判決には金築裁判官による補足意見がついてます。また、最高裁の判決には最高裁調査官という超エリートがその判決の関連情報をまとめたありがたい解説がつけられます。補足意見や調査官解説をみると、次のように整理できます。
「専ら」顧客吸引力を利用する目的とは?
最高裁は「肖像や名前を無断で使うことが、専ら肖像や名前がもつ顧客吸引力を利用する目的の場合はパブリシティ権侵害になる」と言っているわけですが、「専ら」というのは、顧客吸引力を利用する目的以外がちょっとあればダメなわけじゃなく、「主として」顧客吸引力を使う目的があればOKとされています。
①~③は具体的にどういうこと?
先ほどご紹介した①~③の基準は、具体的には次のような考えられます。
①それ自体、独立して鑑賞の対象となる商品として使用する場合 ブロマイド、ポスター、ステッカー、シール、画像配信サービスなど、その商品自体を鑑賞する場合が①に当たります。 名前についても、たとえばサインなど鑑賞できるものはここに含まれることになります。 ②商品の差別化のために使用する場合 いわゆるキャラクター商品がこれにあたります。 Tシャツ、ストラップ、下敷き、カレンダーなど。キャラクターブックもこれにあたります。 調査官解説では例として、レシピ本の表紙に有名料理人の写真を載せるのは差別化を図る目的なので②にあたるとしています。 ③商品の広告として使用する場合 そのままですね。 なお調査官解説では、本の広告に著者の写真を使うのは、商品の出所を示すもので③にはあたらないとしています。 また、レストランに芸能人が来店した写真を店内に飾るのも、芸能人が来店した事実を示すだけで「広告」とはいえないとしています。 |
雑誌のグラビアについてはどう考えればいい?
雑誌のグラビア写真はどう考えればいいでしょうか?
上の基準①「それ自体、独立して鑑賞の対象となる商品として使用する場合」のうちの「独立して」がカギになります。
つまり、写真の大きさや取り扱われ方と、記事の内容を比較して、記事と無関係に写真が掲載されてるとか、記事があくまで添え物にすぎないなんて場合は、写真が「独立して」使われてるといえそうです。
逆にいえば、記事と関連性があり、記事が添え物ではない場合は「独立して」鑑賞の対象となるとはいえないので、パブリシティ権の侵害にはあたらないということになります。
なので、パブリシティ権侵害にならないようにするには、記事にきちんと内容があり、それと関連する形で写真を小さく使うのがよさそうです。
さいごに
「ピンク・レディー事件」最高裁判決をご紹介しましたが、パブリシティ権については、これからも裁判例が蓄積していくものと思われますので、今後の動きは要チェックです。
なお、厳密にはパブリシティ権侵害にはあたらなくても、クレームやトラブルにはなりますし、他人の写真を使えば当然、著作権侵害にもなりますので、このあたりも十分ご注意ください。
Photo by Mauro Gigli on Unsplash